第4回から続く)

作品のモティーフからピカソのセラミック制作を解き明かす「地中海人ピカソ」展、「3章 闘牛:古代地中海世界からの儀式」のご紹介です。

スペインといえば「闘牛」と連想する方もあるでしょう。中でもピカソの生まれ故郷のアンダルシア地方では闘牛はとても盛んで、彼も幼い頃から闘牛場に親しみ、父親をはじめとする周囲の大人たち同様に熱狂的な闘牛好きに育ちました。作品にも初期から様々な寓意を込めて描いていましたが、特に南仏に移ってからは、闘牛をめぐるにぎやかで楽しげな側面を好んで表現しています。セラミック作品にもその傾向がよくあらわれ、闘牛士と牛の美しいシルエットや、競技場に集う観衆などを皿や壺に表しました。

現代において闘牛は「残酷」とされ、スペインでも次第に行われなくなっていますが、「いけにえの獣を神に捧げて祈る」行為自体は、古い時代には世界中で見られました。アンダルシア地方では特に、猛々しく立派な雄牛を力強さや豊かさの象徴として重く見ていたようです。この大切な雄牛をいけにえとした儀式もまた重いものだったことでしょう。

それらの遥かな記憶もあってか、この地では闘牛に熱狂する風土が生まれました。闘牛士は自らの命と名誉を掛け、取り囲む観衆が心を合わせて「儀式」を見届けます。これは命の尊厳を心身に刻む機会でもあったかもしれません。

ピカソの闘牛のモティーフの作品には、古代から受け継がれた自然への畏敬の念までもが表現されているようです。

(第6回に続く)

一覧に戻る