(第2回から続く)
作品のモティーフからピカソのバックグラウンドに迫る「地中海人ピカソ」展、今回からは各章をご紹介します。
「1章 神話世界と動物たち」では、地中海地域で古代から育まれてきた神々の物語や、その世界観を通して眺めた動物たちの姿をモティーフとした作品が並びます。
恋人と共にコート・ダジュール地域に本拠地を移し、本格的にセラミックの制作に取り組むようになったピカソがはじめに選んだのは、愛と豊穣の歓びをうたった神話的な題材でした。そこには愛する人との間に子供を授かり、やっと訪れた愛と平和の時代を讃える彼の気持ちのありようが伺えます。
そもそも古くから、地中海世界は様々な文明の興亡の舞台となってきました。古代のフェニキアやエジプトからギリシャ・ローマにわたる多神信仰、あるいは中世のキリスト教勢力とイスラム勢力とのせめぎ合いなどが、人々や風土の記憶の中に地層のように積み重なっているのです。
ピカソは、そこに自身の解釈を加えて時代を超えた表現を生み出しました。例えば、複数の神話で聖俗にわたる複雑な性格を持つ「牧神パン」が描かれた大皿では、角などの強い筆致が厳しさを見せつつも、あふれる彩色に輝いています。
また、壺のシンプルな造形に絶妙に寄り添うよう描かれたヤギやウシの姿には、単なる獣の似姿を超えて、多産や豊穣など原始の信仰の面影が見えるようです。
(第4回に続く)