(第3回から続く)
作品のモティーフからピカソのバックグラウンドに迫る「地中海人ピカソ」展、「2章 プロヴァンスの幸(さち)と鳥たち」をご紹介しましょう。
1章では、目には見えない豊かな土地の記憶を表現する様子に触れましたが、2章では、目にも見え、手でも触れられる、「いまここ」にある親しげな自然の恵みが鮮やかに表現されています。
ピカソが住んだコート・ダジュールは、フランス南東部のプロヴァンスと呼ばれる温暖な地域にあり、いわゆる海の幸、山の幸にも恵まれてきました。大人数で賑やかに食事を楽しむ習慣を大切にしていたというピカソの日々の食卓も、さぞ楽しいものだったことでしょう。
ここではその食卓が想像できるような「恵み」が釉薬や粘土を駆使して生き生きと表されています。中には、見るからにオーブンで焼かれたばかりのイワシが乗ったお皿、という作品も見られます。
シンプルな花瓶の胴回りに線描きされた大きな目玉のサカナは、うっかりするとそのまま泳ぎ出してしまいそうですし、皿に描かれた果実でさえ強い輪郭線が放つ生命力にあふれていて、ピカソが自然の恵みに捧げた喜びが素直に伝わってきます。
また、鳥たちにとってもプロヴァンスは楽園だったのでしょうか。ピカソが幼いころから大好きだったハトはさまざまな姿で皿に描かれ、ハトに並ぶお気に入りだったフクロウも、丸みのある愛嬌たっぷりの姿でたたずんでいます。
(第5回に続く)